この記事ではリハビリテーションにおける「意思決定」の重要性について解説をしていきます。
「意思決定」と聞いて、それがリハビリテーションや日常生活でどのように関わっているかをパッと想像できる方は少ないと思います。
「意思決定」に興味を持つ前の僕もそうでした。ですが、「意思決定」について学んでいくと、それが私たちの生活場面と密接に関わっていることが分かります。
それを理解すると、私のように「意思決定」について知りたいと興味が出てくる方もいらっしゃるのではないかと思います。
この記事では「意思決定」という身近でない概念がもっと皆さんの生活や臨床に近づく力添えができるように解説をしようと思うので、ご興味がある方はぜひ読み進めていってください。
僕の「意思決定」に関する3つの疑問
「意思決定」について考えるとき、下記の3つの疑問が出てくるのではないでしょうか。
① 意思決定ってなに?
② リハビリテーションにおける「意思決定」とは?
③ なぜ「意思決定」が重要視されているのか?
「意思決定」という言葉は普段使わないですからね…。そもそも「意思決定ってなに?」となるかと思います。
上記3つの疑問が皆さんの知りたいことと一致しているかを祈りつつ、次の章から各疑問について調べたことをまとめていきます。
疑問① 意思決定ってなに?
「意思決定」について理解を深めていくには、そもそもの言葉の意味を把握しないといけません。
意思決定とは、
一般には,ある目標達成のための諸手段を考察し,分析し,その一つを選択決定する人間の認知的活動をいう。
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
ここでの重要な単語は、目標達成・手段・分析・選択です。
つまり、目標達成に向けての手段を考察・分析し、最良な案を選択することを「意思決定」と言います。
意識しないと気づくことは難しいですが、実は私たちはこの4つの要素のプロセスを通じて、「意思決定」を頻回に行っています。身近な例としては、買い物が挙げられます。車を購入するまでのプロセスを想像してみてください。
まずはじめに、車を購入するときは目標があると思います。例えば「黒のカッコイイ車が欲しい」というような希望のようなものです。
目標が決まったら、その達成に向けた手段を考えると思います。ここでは、「黒のカッコイイ車」を何台か候補として挙げるのがそれにあたります。
案を挙げたら、それらの選択肢をもっと詳細に分析します。分析方法は、人に聞いたり、カタログを見たり、Youtubeでのレビューを見たりと人によって様々だと思います。
一通り分析が終わったら、最後の行程です。選択肢を分析すると、自分の中で優先順位がある程度定まると思います。そして、最終的に自分の嗜好や用途、金銭面などを考慮しながら、最適な選択肢を選択し、車の購入へと至ります。
ここでは車の購入を身近な意思決定の例として挙げましたが、それ以外にも私達はさまざまな場面で「意思決定」をしています。例えば、着る服を選ぶときや就職先を決めるとき、今日のご飯を選ぶときetc…
このように私たちは目標・手段・分析・選択といったプロセスから成る「意思決定」の連続があって、今のこの自分がいます。
つまり、「意思決定」は自分の生き方につながる重要な要素なのです。
このように、意思決定の学びは、日々の生活における選択に役立ちます。自分の目標や希望に沿った決定ができるようになるからです。さらに、意思決定の力を身につけることで、自分の理想とする生き方に近づくことができるのです。それが「意思決定」について学ぶことのメリットだと僕は考えます。
疑問② リハビリテーションにおける意思決定とは?
前章では日常生活における意思決定について触れていきました。この章では、リハビリテーション場面での意思決定について考えていきたいと思います。
リハビリテーション場面においてもたくさんの意思決定を行っています。そのなかでも重要な意思決定は、クライアントの治療を決定する場面です。クライアントにどんな治療を提供するかによって、効果が変わるからです。
極論ですが、足の筋力を改善させたいといった希望を持つクライアントに腕の筋力を向上させる治療を行っても、最大の効果は得られません。
私たちはリハビリテーション場面においても、目標を設定して手段を考察・分析し、選択するといった意思決定を頻回に行っているのです。
ただ、その意思決定が必ずしも正しいとは限りません。私たちの意思決定には個人の経験則やエビデンスを度外視した決定、バイアスなどが掛かっているときがあります。
そのため、リハビリテーション職が「意思決定」に対する知識や技術を取得することは、クライアントに対して適切な治療の決定を行うためにとても重要であるといえます。
疑問③ なぜ「意思決定」が重要視されているのか?
前章では「意思決定」がクライアントにとって適切な治療の決定を行うのに重要であることを解説しました。この章では近年のリハビリテーションの業界で「意思決定」が重要視されている理由について解説していきたいと思います。
①クライアント中心のリハビリテーションの実践に必要
②Evidence-Based Practice(以下:EBP)を行ううえで重要な役割を果たす
各理由についての詳細を下記で解説をしていきます。
① クライアント中心のリハビリテーションに意思決定の知識・技術が必要
第一に、クライアント中心のリハビリテーションを実践するためには、意思決定についての知識や技術が不可欠です。
クライアント中心のリハビリとは、クライアントを受動的な存在ではなく能動的なパートナーと捉え、クライアントの主体性を尊重しながら協働的にリハビリテーションを進めていくアプローチのことです。
かつての医療では、医療者が一方的に決めた方針で治療をするのが一般的でした。
しかし、クライアントの権利や価値観・ニーズを尊重する重要性の観点から、クライアントを中心に据えるリハビリの必要性について論じられるようになってきました。
では、「クライアント中心のリハビリ」がどのように「意思決定」に関わってくるのでしょうか?
それは、「クライアント中心のリハビリ」の実践の仕方を紐解いてくと分かります。
クライアントの価値観・ニーズをリハビリに反映させるためには、クライアントとセラピストが共同して目標や方針、治療内容を意思決定する必要があります。
ですが、クライアントが中心だからといって「では、どの治療をするかはあなたの自由です。では、決めてください。どうぞ。」というように関わったらクライアントは困ってしまいます。
クライアント中心のリハビリを実践するとき、意思決定の場面ではセラピストがクライアントと共同する必要性があるのです。
このようにクライアントと共同して意思決定をすることをSDM(Shared Decision Making:共同意思決定)といいます。
まとめると、クライアント中心のリハビリをしていこうといった流れがあり、その実践にはクライアントと共同して意思決定をしていくための知識や技術が必要。だからこそ、近年において「意思決定」が注目されているのです。
②Evidence-Based Practice(以下EBP)を行ううえで重要な役割を果たす
第二に、エビデンスに基づく実践(Evidence-Based Practice: EBP)を行ううえでも、意思決定は重要な役割を果たします。
EBPとは、現在利用可能な最良のエビデンスを、臨床家の専門的技能とクライアントの価値観や状況を統合して行う臨床実践のことです。
ここで重要なのが、単にエビデンスを重視するだけでなく、それを患者個人に適用するには、患者の意向を踏まえる必要があるのです。そこに意思決定プロセスが不可欠です。
「これがあなたに一番効くから、リハビリでやっていきますね。」では患者の価値観やニーズを踏まえているとはいえません。治療を行うときにはエビデンスも必要な要素ですが、そこに状況や環境、クライアントの価値観を考慮した上での治療決定ができるのがEBPにおいて重要なのです。
その治療決定プロセスにおいて、「意思決定」の知識・技術が必要です。そのため、EBPの広まりとともに、「意思決定」の重要性も高まっているのです。
以上のように、リハビリテーションにおける意思決定は、近年の潮流であるクライアント中心のリハビリとEBPの実践に重要な知識・技術であり、それについて学ぶ重要性が高まっているのです。
まとめ
この記事では、「意思決定」がリハビリテーションや日常生活にどのように関わっているかについて解説しました。イメージしにくい「意思決定」という概念ですが、実は私たちの生活や臨床に密接に関わっているのです。
具体的には、「意思決定」とは何か、リハビリテーションの場面における意思決定、なぜ重要視されていうのかについての3つの疑問を中心に説明しました。
意思決定は、目標を設定し、手段を考え、分析し、最良の選択をするというプロセスであり、私たちの日常生活でも頻繁に行っていることです。また、リハビリテーションにおいては、クライアントを中心に据えつつ、最適な治療を提供するために意思決定の知識と技術が必要であることをお話ししました。
最後まで読んで頂きありがとうございます。拙い文章や言葉たらずのところも多々あったと思います。ご指摘やご意見があれば、コメントの方に入力をお願いします。
この記事が皆さんの生活や臨床にお役に立てることを願っています。これからも一緒に「意思決定」について学び、日常生活やリハビリの現場で役立てていきましょう。