SDMとは、患者さんが医療の意思決定を行う際に、医師からエビデンスに基づいた医療情報を提供してもらい、患者さんからも価値観や希望などの情報を医師に提供し、互いの情報を共有しながら一緒に決定を下すプロセスのことです。
なぜSDMが重要なのか?
SDMは、患者さん中心の医療を実現するために不可欠なものであり、以下の目的のために重要とされています。
- 患者さんが後悔しない最善の医療決定を下せるようにするため
- 患者さんの価値観や希望を医療に反映させるため
- 患者さんや家族の意思決定の負担を軽減するため
- 患者さんと医療者の対話を通じて、最善の選択をするための情報を得るため
SDMの歴史的背景
SDMは、以前主流であったパターナリズムという考え方から発展してきました。パターナリズムとは、医師が患者のために最善と考える治療法を一方的に決定し指示するアプローチのことです。
しかし、人権意識の高まりや医療の高度化、患者の医療知識の向上などにより、**インフォームド・コンセント(IC)**という考え方が普及しました。ICは、医師が患者に治療法を説明し、患者が理解・同意した上で治療を行うというものです。
SDMは、ICの考え方をさらに発展させたもので、患者さんと医療者が対等な立場で、協力して意思決定を行うことを重視しています。
SDMの構成要素
SDMには、以下の要素が含まれます。
- 問題の定義と説明
- メリット/リスク/コストの話し合い
- 患者の能力/自己効力感についての話し合い
- 医師の知識/推薦
- 理解の確認/明確化
- 決定する、または明確に延期する
- フォローアップの手配
SDMの実践ステップ
SDMを実践するためのステップとしては、SHAREアプローチや3ステップモデルなどが提案されています。
SHAREアプローチ
- Seek your patient’s participation (患者の参加を求める)
- Help your patient explore and compare treatment options (患者が治療法の選択肢を検討し、比較できるようにする)
- Assess your patient’s values and preferences (患者の価値観と嗜好を評価する)
- Reach a decision with your patient (患者とともに決断を下す)
- Evaluate your patient’s decision (患者の決断を評価する)
3ステップモデル
- Choice talk: 選択肢があることを患者に伝える
- Option talk: 各選択肢の詳細を説明する
- Decision talk: 患者の選好を引き出し、決定を支援する
SDMのメリット
SDMには、患者さん、医療者、医療システム全体にとって様々なメリットがあります。
患者さんにとってのメリット
- 治療に対する理解と満足度の向上
- 自己管理能力の向上
- QOL(生活の質)の向上
- 治療への積極的な参加と主体性の向上
- 医療者との信頼関係の強化
医療者にとってのメリット
- 患者の症状や副作用をより的確に把握できる
- 患者との信頼関係の強化
- 職務満足度の向上
- 診療の質の改善
医療システム全体へのメリット
- 入院期間の短縮
- 医療費の低減
- 緊急透析導入の回避など、計画的な治療導入の強化
- 治療選択の地域差・施設間格差の軽減
SDMの課題
SDMの実践には、いくつかの課題も存在します。
- 時間の制約
- 患者の理解度や意思決定能力の差
- 医療者の技能と態度
- 医療システムの構造的問題
SDMの未来
SDMは、患者さん中心の医療を実現するための重要なアプローチとして、今後もますます発展していくことが期待されます。SDMの実践を通じて、患者さんがより良い医療を受けられるようになるだけでなく、医療者と患者さんの信頼関係も深まり、医療全体の質の向上にもつながることが期待されています。